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ちょい読み!教師のチカラVol.6

教師のチカラNo.40(2020年冬号)巻頭インタビュー

ロボット技術で人々が幸せな未来をつくる

古田貴之( 千葉工業大学未来ロボット技術研究センター所長・工学博士)

この記事を読むのに、約3分程かかります。

ロボット開発を通してよりよい未来をつくる

 僕の仕事はロボット開発を通して未来をつくることです。これまで行政機関や企業とのコラボレーションなど、さまざまな形で研究開発に携わってきましたが、その活動のほとんどはボランティアです。人々が幸せになる社会の構築を個人の利益より優先しています。
 文学者は創作物で人々を楽しませ、料理人は新たなレシピで食文化を変え、スポーツ選手は競技する姿で世の中を元気づけます。あらゆる職種の人々がそれぞれのやり方で社会貢献するなかで、ロボット学者の多くはそれを怠っています。
 日本が抱える少子高齢化は医療・介護・福祉分野だけでなく、社会全体が手を取り合って知恵を絞り、乗り越えていかなければならない課題です。近年僕が手がけたロボットは、高齢者が生き生きと元気に活動できる社会を目標として開発してきました。僕はそうした未来を次世代に届けられるよう力を尽くしています。さらに、こうした取り組みを進めていく子どもたちを育てるため、全国の小中学校でロボットのおもしろさを体験できる講座や授業を実施しています。

親は子どもの個性を伸ばし、学校は共創をめざす

 上の娘が4歳のとき、妻が英語教材で学ばせようとしましたが、僕は反対しました。英語は単なるコミュニケーションの手段です。子どものうちは本人ならではの個性を伸ばすことが重要で、そうした能力を引き出すのは好奇心です。当時の娘は出演者たちがロールプレイングゲームで対戦するテレビ番組が好きでしたが、自分でゲームをすることを妻に禁止されていました。ところがある日、祖父にゲームカセットを買ってもらい、持ち帰ったところ、妻にそのカセットを壊されてしまいました。大泣きする娘を僕が連れ出し、2人分のゲーム機とカセットを購入して家に帰ると、再び妻にそれを取り上げられそうだったので、僕が「100回壊したら100回買う」と宣言、このときは妻が折れました。それから娘はゲームを極めるため『ゲーム事典』を熟読、11歳で漢字と計算が得意になり、さまざまな分野の『百科事典』や『図鑑』などに興味を広げていきました。中学3年生になった今では、大学生レベルのレポートを作成して学校で高い評価を受けています。
 もう一つ、これもわが家のエピソードですが、下の娘は小学生のとき、妻から「宿題を早くやりなさい」と毎日厳しく言われていました。「やりたくないのなら、やらないで学校に行ってごらん」と僕が言うと、娘は宿題をやらず、教師に叱られて帰ってきました。そこで僕が「叱られても耐えられるのならやらなくていいよ」と言ったところ、娘は自分の意志で宿題をやるようになりました。子どもはほかの人に言われてやるのではなく、自身の判断に基づいて自律的に行動することで学習効果が向上します。こんな乱暴なやり方が通用したのは、僕が親だからです。子どもが一人の人間として生きるのに必要な能力や、やってはいけないことは親が愛情をもって教え、それでも伝わらないときは地道に何度も説くことです。
 子どもの人生を決める教育のすべてを学校が責任もって行うというのは間違いです。親と教師が教育のどの部分を受けもつのか、話し合って調整すべきです。教師の仕事が増えすぎて、子どもと対話する時間がもてないようでは教育現場としての機能を果たしません。
 個性は、一人一人の子どもがほかの人と違うことを認めるところから始まります。家庭だけでなく、学校でも個性を育むよう取り組んでいただきたいです。子どもが興味をもったり、質問してきたりすることに耳を傾け、参考になりそうな書籍や施設があれば教えてあげてください。頭から否定したり、叱ったりするのは禁物です。
 すべての職業には人の心を動かす力があります。そして、さまざまな分野で専門的な仕事をしている人は自分が身につけた能力を次世代に伝えたいという気持ちがあります。学校ではこうした地域の方々に協力をあおぎ、子どもたちに話をしていただく機会を増やしてみてはいかがでしょうか。
 海外と比較して日本人はあらゆる職種のレベルが高く、財布を失くしても持ち主の手もとに戻ってくるような国です。この国民性を支え、社会を底上げしているのは小中学校教育です。しかし、こうした戦後教育には「悪平等」という弊害もあり、平均を押し上げるために、できる人の能力を抑える二律背反的な側面があることに留意すべきです。
 僕は2歳から7歳までインドで暮らしていました。アメリカンスクールでは人と違うことがすばらしいこととされ、多様性を認める文化がありました。人種や宗教、性別などの違いを認め、互いに尊重することが僕の原点に。帰国した日本では、ほかの人と違うことを排除する風潮がありました。小学校ではほかの子どもたちから宇宙人のように見られ、自分の考えや個性を隠すようになりました。そして、疎外感は教師からも感じられました。いじめって何だろう……、この頃から繰り返し考えてきました。この世のすべての戦争や争いは、ほかの人との違いを認めないところから始まるのではないか。相手の存在を認めるところからしか、人との関係性を深めることはできません。
 日本の未来は他者を認めなければ存在しません。昔の日本は誰もが欲しがるものを高品質低価格でつくれば市場経済で勝てましたが、今後はたとえば、アメリカのiPhoneやGoogleなどのように、どこにもない独創的なものをつくらなければ勝ち残っていけません。時代は独創から「共創」へと変化し、人間関係、あるいは学際的なコラボレーションが要請されています。人が何をできるか以上に、ほかの人と連携して何ができるのか、チームビルドが不可欠に。機械がITや、さまざまな文化・宗教・デザインなどと組み合わされて新しい製品が誕生します。そして、こうした人と人が手を取り合う共創の入り口が小学校教育にあるのです。
 4年生のとき、理科の授業をボイコットしたことがありました。ある日、「水を貯めた水槽に石を入れると沈み、スポンジだと浮く。これがなぜなのか、来週までに考えてきなさい」という宿題が出ました。同じ体積の石は水より重いから沈み、スポンジは水より軽いから浮く。僕はそんな簡単な答えでは飽き足らず、石を水より重くする何らかの物質があるに違いないと考えました。この秘密を解き明かせば、巨大戦艦を宙に飛ばすことも可能ではないか。その日から毎日、図書館で物理や万有引力の法則などの本を読みあさりましたが、現象の説明はあっても、なぜ重力は起きるのかという理由は記載されていません。それもそのはず、物質に質量をもたらす「ヒッグス粒子」の存在を予言したピーター・ヒッグス博士がノーベル物理学賞を受賞したのは2013年のこと、いまだに発見されてはいません。
 6日間で100冊以上を読破しても答えが見つからず、うなだれて翌日の理科の授業に出ました。教師に「宿題の答えがわからなかった人は?」と問われて手を挙げたのは僕一人、ほかの全員が「石は水より重いから沈む」と答え、教師から「はい、正解。そんなことがわからないという古田君は嘘つきです。手を挙げて廊下に立っていなさい」と言われて、僕は廊下に出され、大泣きしました。
 小学生は少しのきっかけで勉強を好きになったり嫌いになったりし、子どもの将来は大きく変わってしまいます。僕は幸いにも中学で別の教師と出会い、その教師の笑顔を見るために、再び理系の勉強をがんばるようになりました。

ロボット解体には数学と物理のおもしろさが詰まっている

十数年前から小中学校などで「ロボット解体ライブ」を開催してきました。数学や物理はそのおもしろさを伝えることが難しいのですが、ロボットは数学や物理の集大成です。子どもたちは1体3000万円はするロボットを解体すると、そのどこに数学や物理が生かされているのかを自分の手から理解することができます。すべてボランティアで、多いときは年間200講演を実施、過労で倒れたこともありましたが、子どもたちの可能性をほんの 少しでも広げることができるなら大きな喜びです。ロボット技術は最先端でも5年でローテクへと価値が下がってしまいます。僕が果たすべき役割は寿命の短いロボット技術をそのまま残すのではなく、その技術から新たな技術を生み出す人を育てることです。
 ロボット講座や解体ライブをきっかけに、出会った男の子を2人紹介します。一人は僕が所長を務める千葉工業大学未来ロボット技術研究センターが、最近インターンシップとして採用したジョージ・ムシェ君、マンチェスター大学制御工学科の優秀な学生です。彼が8歳のとき、あるロボット講座で出会い、15年後、僕とロボット開発をするために来日しました。
 もう一人は小林君。2003年、人間型ロボットのデモンストレーション会場で、当時5歳の幼稚園児だった彼にどうしたら僕のようになれるのかを聞かれて、「精密ドライバーで何でも分解すること」と答えました。その4年後、日本科学未来館(東京都江東区)で開いた最初のロボット解体ライブで9歳の彼に再会すると、すでに精密ドライバーを正確に使いこなしていました。
 現在、研究センターで青山学院大学初等部6年の「アマチュア無線クラブ」という科学クラブの指導に当たっています。専門技術のない12人の子どもたちが、半年で大学生レベルのロボット1号機をつくりました。センサーで障害物を避けながら迷路を走ります。彼らが自作したクラブのプロモーションには「迷路を何度も破壊し、ロボットの部品を壊すたびに自分が進化した」と記載されています。

未知の領域で、あるかどうかわからない正解を探す

 ロボットだけでなく、学問研究分野では成績が優秀で学年1位のような人は研究者には向いていません。学校の勉強は作業であり、労働です。教科書やノート、インターネットなどを使い、時間をかければ、学校のテストはだれでも満点を取ることができます。
 しかし、この世にないものを生みだすのは文学や芸術作品をつくるのと同様、創造性です。僕の頭のなかで、文学とロボット技術は同じような仕組みをもち、毎回手探りで道を探します。この世にすでにある道筋ではたどり着けない場所へ踏み込み、そのさきに正解が存 在するのかどうかもわかりません。
 未知の領域に勇気をもって進み、正解を探求する情熱こそがこの世にはない新しいものをつくり出し、よりよい未来社会を切り開くと信じています。


表紙
子どもを「育てる」
教師のチカラ

子どもを「育てる」教師のチカラNo.40(2020年冬号)

特集 子どもを見捨てない!今からでもできること

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