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ちょい読み!教師のチカラ Vol.3

教師のチカラNo.38(2019年夏号)巻頭インタビュー

この記事を読むのに、約3分程かかります。

ダンス好きの子どもがチアへ

 私は今、 37 歳でNFL(プロアメリカンフットボールリーグ)のチアリーダーをめざしています。NFLは世界最高峰のチアリーダーであり、「ロールモデル(女性の規範)」と呼ばれて全米から尊敬される存在です。NFL32チームがそれぞれ募集する30〜40人の枠に、世界中から応募者が集まり、競争率は10倍以上の狭き門と言われています。私は4月から始まるサンフランシスコ49ersなどのチームのトライアウトに挑戦します。

 なぜ私が日本を飛び立ち、無謀と言われるような夢に挑もうとするのか。それはチアが好きだから、NFLという熱狂的な舞台で踊りたいからです。夢をあきらめ、これから先、後悔したまま人生を送りたくないですし、これが挑戦できる最後の機会となるはずです。トライアウトに受かっ たとしても、1年契約で収入は年間1000ドル以下、得られるのはステイタスだけです。先のことはわかりませんが、全身全霊を尽くすつもりです。

 小さな頃からダンスが大好きで、お祭りのときの街頭のパレードや盆踊りを見ると一緒に踊り出すような子どもでした。京都女子中学・高校ではバトントワリング部に所属、手にあざをつくりながら技術を身につけました。姉妹校が出場する甲子園などのスポーツ大会で応援を務め、競技者・観客と思いを共有し、競技場内を一つに導くチアリーディングに熱中しました。

 大学は早稲田大学第一文学部に入学、応援部チアリーダーズに所属、六大学野球やアメリカンフットボールなどの試合を笑顔とダンスで盛り上げ、チームを後押ししました。この頃、テレビ番組でNFLのチアリーダーに挑戦する日本人女性の輝く笑顔とエネルギッシュなダンスに心を奪われ、いつかは自分もと夢みるようになりました。それを実現するためのステップとして、信頼できるコーチのレッスンを受けていました。

 卒業後は社会人チームをもつ企業などに就職してチアを続ける道もありましたが、時間的に拘束されるため、社会人クラブチームで活動することを決めました。チームメンバーは学生や社会人など30〜40人で5人のコーチがつき、国内・アメリカなどのチアダンス大会に出場、最高で国内4位の成績を収めました。練習のスタジオ代、衣装代、海外遠征費など多くの費用がかかりますが、クラブからは無報酬ですので、英語力の向上を兼ねてアメリカンレストランでアルバイトに励みました。ダンスやパフォーマンスの技術を磨き、NFLチアリーダーへの夢を追いました。

 2年半後の2007年からは社会人クラブチームをやめ、スポーツクラブなどのキッズチアのインストラクターを務めたり、北京オリンピックなどのイベントに参加して、最低限生活できる程度の収入を得て個人レッスンを強化、レベルアップを図りました。

チアの夢をしまい込み、小学校教員免許を取得

 チアリーダーとして活動する一方で、卒業1年後の2006年からは、日本女子大学家政学部通信教育課程に入学し、小学校の教員免許を取得することにしました。大学応援部当時の友人のアキレス腱断裂がきっかけでした。彼女はスポーツジムに就職していましたので、有給休暇をとり復帰できましたが、自分はけがや病気で収入が途絶えると、暮らしが成り立たないことから、資格取得に踏み切りました。早稲田大学では小学校の教員免許は取得できず、両親が教師だったこともあって、家族からも取得を勧められていました。単位認定のリポートやスクーリングは順調でしたが、日本女子大学の単位認定試験が年5回しかなかったため、なかなか受験できず、教職課程を取り始めた3年後の2009年、いったん大阪の実家に戻り、単位取得を優先することにしました。

 この間も地元プロ野球のオリックス・バファローズ、Fリーグ(日本フットサルリーグ)シュライカー・大阪、Bリーグ(日本バスケットボールリーグ)滋賀レイクスターズなどでチアリーダーを務め、経験を広げました。これらのプロ・社会人チームのコーチはNFLやNBA(アメリカプロバスケットボールリーグ)のチアリーダーやファイナリスト経験者が多く、その指導を受けることができたのは貴重な経験でした。NFLチアリーダーへの夢はいったん胸の奥にしまい込む一方で、着実なスキルアップを図りました。

教職という際限のない仕事

 教職課程の単位が取得できたのは通信教育課程に入学してから10年後の2016年3月でした。2015年教員採用試験に合格し、2016年4月から教職に就きました。小学生のときは学校が嫌いで、授業を楽しいと感じたことはありませんでしたが、日本女子大学のスクーリングで出会った先生たちの授業はすばらしいものでした。先生や指導法によってこんなに楽しい授業が行えるのかと驚かされました。

 2016年の4月から2018年の6月まで大阪府公立小学校に勤務、4年生と2年生の担任を務めました。子どもたちは授業が楽しければ、成績がよくなり、達成感を覚え、次はもっとがんばるようになりました。初任のうちはおもしろく話したり、流れるように板書したりはできませんので、勉強の内容に興味をもってもらえるよう授業前に徹底的な下調べや準備を行いました。たとえば、国語科の「ウナギのなぞを追って」という課題では、ウナギの生態に関するテレビの録画を視聴させました。また、透明のフィルムを子どもたちに配付し、漢字の一部分ずつを書かせ、上からフィルムを重ねて漢字の構造をわかりやすく示すなど、視覚的に理解させるためのものづくりにも取り組みました。さらに、子ども同士で教え合う時間をつくり、教える側の子どもを「ミニ先生」と呼んで、子どもたち同士で教え合いをさせました。「振り返り」を大切にし、「学び合い」の実践を活用することもありました。「ノートコンテスト」を行い、実験の様子などを色分けしてじょうずにまとめている子のノートをカラーコピーし、教室に貼って子どもたちにもおうちの方にも見ていただきました。

 2年生の担任のときには多少支援が必要な子がいましたが、押したり引いたりいろいろなアプローチを試み、学習への理解を通して少しずつ信頼関係をつくるよう心がけました。授業は子どもたち目線で、どういう話をしたら子どもたちが興味をもつのかを常に考えて進めました。指導内容がおもしろくなければ、どのようにつくり変えれば楽しめるかを考えて工夫しました。そして、クラス全員のよいところやがんばりをいつもたくさんほめました。

 体育は私自身が不得意でしたので、学年のほかの先生にアドバイスをいただきました。とび箱が何段とべたかというような一律の評価ではなく、一人ひとりのレベルや上達の過程を大切にし、今までできなかったことができた瞬間をともに喜びました。体育が苦手と自覚し始める中学年の子どもの気持ちに寄り添い、共感しながら進めました。体育の授業でも「めあて」と「振り返り」をノートにまとめさせて、体育を少しでも好きになってもらえるよう努めました。

 2年間とも授業づくり、クラスづくりはおうちの方や学校から評価していただき、やりがいを感じていました。私が担任をしていたクラスの成績は突出してよかったので、校長先生から、学年4クラス全体がまとまって成績が向上し、学校全体がよくなるように働きかけてほしいと言われ、どのようにしたら全体がよくなるのかを考え、もっとがんばらなければと思うようになりました。

再び夢を追いかける

 教師を続けている間は、朝早くから夜遅くまで仕事に没頭し、土日も出勤、慢性的な睡眠不足でした。不規則な生活で2年目は体調不良が続きましたが、終業式まで学校を休みたくなかったので病院にも行きませんでした。子どもの前では笑顔でしたが、それ以外の時間は体が重く、いつか動けなくなるかもしれないという不安を抱えていました。

 私が教師として勤めている間に、同じ年齢の人が2人、自分より年上の人が1人、NFLチアリーダーに合格したというニュースで衝撃を受けました。

 夢をあきらめたつもりでしたが、NFLやNBAのチアリーダーが一時帰国されたときに実施されるワークショップには必ず参加していました。年齢的・体力的に無理だと自分で思い込んできたことが無念でした。自分が一度も夢に挑まなかったことをこれから先、ずっと後悔して生きていくのだろうかと、胸がふさがる思いでした。

 2018年の春、健康を害して休暇をいただき、これからどう生きていくか考える時間をもつことができました。教師を続ければ手を抜くことができず、要領もよくないので、また体調を崩すことになると感じていました。教え子たちと離れたくないという気持ちを抑え、悩み抜いた末に6月で教職を辞し、同時に2019年春のNFLチアリーダーへの挑戦を決めました。

 まず、健康を取り戻すことが第一でした。そして、渡米するまでの1年弱、国内のXリーグ(日本社会人アメリカンフットボールリーグ)エレコム神戸ファイニーズチアリーダーのオーディションを受けて合格し、現役復帰を果たしました。食事制限をし、ジムに通って体をつくり、準備を進めました。

 2019年3月に渡米し、NFLのいくつかのチームを受ける予定です。トライアウトに合格できるかどうかはわかりません。日本人にはビザ取得が難しく、言葉や文化など乗り越えなければならない壁が多くあります。NFLに合格できたとしても就労ビザではないので、働くことはできず、資金面の準備も必要です。

 教職を辞める前、周囲の人々から「帰国してからどうするのか」と聞かれたり、「努力しても人間にはかなわないことがある」と言われたりしました。

 大人になると、夢見ることに自分でいろいろな言いわけをするようになるようです。夢を追いかけるのに年齢は関係ないことを私の挑戦が示し、誰かを勇気づけることができればと考えています。


表紙
子どもを「育てる」
教師のチカラ

子どもを「育てる」教師のチカラNo.38(2019年夏号)

特集① 力をつける教科書活用法
特集② 日常の活動で子どもの全力を引き出す!

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