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ちょい読み教師のチカラVol.9

教師のチカラNo.43(2020年秋号)巻頭インタビュー

行き場のない少女たちに安心していられる場所を

仁藤夢乃(一般社団法人 Colabo 代表理事・社会活動家)

この記事を読むのに、約3分程かかります。

「一緒にご飯を食べよう」という声かけから始める

 一人の虐待を受けていた18歳の少女は、高校中退後、家出して上京、未成年で住民票がないので就職できず、道で声をかけてきた男性の家を転々としました。その後、性搾取斡旋業者のスカウトの家で、週6日男性の相手をさせられて月3万4000円を受け取り、そこから家賃を支払いながらも、仕事と家があるだけでありがたいと思い込まされていました。私たち一般社団法人Colabo(以下、コラボ)と出会ってシェルターに避難して暮らし始め、今は「やりたいことがいっぱい」の様子です。

 家出しようとする少女たちが、Twitterで「家にいるのがつらい」とつぶやくと、10分足らずで「泊めてあげる」「その気持ちわかる、しんどいね」などと、20人以上の性搾取を目的とした大人たちから声がかかります。そして、中高生だけでなく、なかには小学生も性犯罪被害に遭うことがあります。児童買春は海外では「児童性搾取」と言われますが、日本では「援助交際」という言葉で、大人から子どもへの援助であるかのように言われています。しかし、それは対等な関係ではなく、お金のある大人が加害者として、子どもをお金で支配し、性暴力を振るっているにすぎません。こうした状況に子どもを追い込んでいるのは社会の責任です。

 私が代表理事を務めるコラボは、虐待やネグレクト、性暴力被害などに遭っている10代後半〜20代前半の女性を中心に支援しています。主な活動は、夜の街での声かけ、少女たちが無料で食事できるバスカフェ「Tsubomi Cafe(ツボミカフェ)」の開設、緊急避難できる一時シェルターと、シェアハウスとして中長期シェルターを運営、少女たちの現状に気づける支援者を養成する研修や、「夜の街歩きスタディーツアー」の企画開催などです。

 2011年3月に発生した東日本大震災の復興活動への参加をきっかけに、同年5月、明治学院大学社会学部に在学中、任意団体コラボを立ち上げました。大学を卒業した2013年3月には一般社団法人の法人格を取得しました。

 バスカフェの活動は2018年10月から開始し、厚生労働省と東京都のモデル事業として1000万円の助成支援を受けています。しかし、委託費は十分とはいえません。

 少女たちにとっていちばんの困り事は「助けて」と、自分から言えないことです。彼女たちは非行や家出を繰り返しているので、「自分の問題は自分で何とかしなきゃ」と思い、一人ではどうにもならない深刻な事態に陥ることが少なくありません。私たちはそんなとき、まず「一緒にご飯を食べよう」と声をかけるようにしています。食卓を囲むことは相談へのハードルを下げてくれます。気軽に話せる関係性や安心できる居場所をつくることが、解決の糸口になります。彼女たちは家にいられないつらさや泊まる場所がない不安をよく知っていますので、私たちが取り組む夜の街での声かけ活動などに積極的に参加してくれる子もいます。

 コラボの活動は支援する、される関係ではなく、「当事者運動」として、共に考えて行動する関係性を大切にしています。たとえば、コラボとつながる少女たちの発案で「私たちは『買われた』展」を全国各地で企画開催、写真や体験談、日記、手記などの展示によって、児童買春の実態や、そこに至るまでの背景を伝える活動をしています。 

対等に、その先を一緒に考えてくれる大人に

 2013年に『難民高校生』を出版しました。この本は「高校時代、私は渋谷で月25日を過ごす〝難民高校生〟だった」で始まります。私自身も家が安心して過ごせる場所ではなく、中高時代、渋谷の街をさまよう生活を送りました。家にいるより友達と公園にたむろしていたほうが安全でした。ネットカフェやビルの屋上で寝泊まりしたこともあります。高2で学校を中退しました。

 その後、高校卒業程度認定試験をめざして、中退者などを対象とした予備校 「河合塾コスモ」に通い始めました。そこで、講師の一人である故・阿蘇敏文さんに出会いました。阿蘇さんは60代の元教師で、畑仕事を行うユニークな「農園ゼミ」を開講していました。そこではみんなで料理をして、温かい食事を囲み、泊まることができました。安心して過ごせる場所のない10代には「飯と宿」は大切です。コラボでもこれを理念に、ご飯と泊まる場所を用意しています。

 私はそれまで、大人は上から目線で「こうしなさい」「こうあるべき」と押しつけてくる存在だと思っていましたが、阿蘇さんは、そんな私にとって信頼できる初めての大人でした。上下関係ではなく、横並びの、対等な関係性を大切にし、私が何に困っていて、これからどうしたらいいのかを一緒に行動しながら考えてくれました。また、農園にはさまざまな社会問題に取り組む活動家や、社会から排除された人たちが関わっていました。そうした人たちと過ごすなかで、自己責任論を押しつける社会の問題に対して声を上げ、行動することでそれらを変えられることを実感をもって知りました。

特別定額給付金を少女たちが直接受け取れるように

 3月に学校が休校になり、4月7日の新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言以降、コラボでは相談者が急増、4月から5月の約2カ月間で300人を超えました。昨年の相談者数は年間550人程度でしたので、約半年分を超えています。

 増加には二つの要因があります。一つには、子どもの休校と大人の自粛で親子が自宅にいる時間が長くなり、虐待のリスクが高まった上に、学校や地域などの見守りが減ったこと。もう一つは、子どもたちが放課後過ごしていたネットカフェなどが閉店して居場所がなくなったこと。同時に、アルバイトのシフトが少なくなって収入が激減し、生活費や学費が稼げなくなり、子どもたちが家族との距離感を保てなくなったことなどが挙げられます。

 私たちはその日行き場のない人に提供する一時シェルターが不足したため、急遽複数のホテルと連携を図り、50部屋を確保しました。ホテルでの緊急ステイは4月から6月までで35人、270泊の利用がありました。

 また、相談を受けた少女たちが特別定額給付金の10万円を自分の口座で受け取れるように支援する必要がありました。給付金が世帯主にまとめて振り込まれる仕組みは、日本の家制度の名残そのものです。問題を抱えている未成年への個人給付は国会で認められましたが、給付確認書が発行されなかったり、児童相談所で措置されていない子への給付が認められなかったりというトラブルが発生しました。コラボは各自治体に抗議を申し入れたり、手続きに同行したりして給付にこぎ着けました。

 新型コロナウイルス禍の影響はいつまで続くかわからず、少女たちの安全と人権をどう守っていくのか、さまざまな取り組みの強化が迫られています。

子どもたちの背景に目を向け、声をかけてくれる先生に

 給付金以外でも行政手続きは、どの窓口に誰が行っても同じ対応を受けることができるのが本来ですが、未成年が一人で行くと適切に対応されないことがほとんどです。同様に、市民の誰もが当たり前に受けることができる福祉制度が権利ではなく、恩恵のように扱われています。施設や生活保護家庭で育った子が、それを恥と思わされていることがあります。先生たちは福祉は権利であり、個人の人権が尊重されるべきであることを教育現場で教えてください。そのためにも、社会福祉について十分に理解していただきたいです。

 ある少女が親から虐待を受けて、移った里親の家でも虐待に遭い、家出して、その後児童相談所で保護されました。一人の先生がその子に課題図書として私の著書の『難民高校生』を手渡してくれました。その後、彼女が「共感した」と感想を書いたタイミングで、「実はこの本を書いた人は知り合いなんだよ。会ってみる?」とコラボを紹介してくれました。私が本人に会うため学校へ行き、その後、彼女はコラボのシェルターから学校に通い、高校を卒業しました。このように、先生がその子の状態にいち早く気づき、対応できるかどうかで、その子の将来は大きく変わります。先生は勉強を教えるだけでなく、子どもの人生に関わる仕事です。子どもたちが今後、どう生きていけばよいかを考えてくれる先生が一人でも増えてくれるよう願っています。

 家出した女子高校生が暴行されるような事件が発生すると、「加害者になぜついて行ってしまったのか」と、被害者に問題行動があったかのように責め、学校を退学させようとする管理職もいるようです。しかし、彼女たちに非があったわけではなく、加害者はほかの大人たちです。そうした社会構造を理解せず、子どもたちに責任を押しつけるのは間違いです。

 学校によっては、子どもの家庭の事情にまで関与してはならないというような管理体制が敷かれているところもあるようです。そうした学校で、子どもたちのために行動しようとする先生が組織から追い詰められて、体調を崩すというような話を聞いたことがあります。先生自身が孤立しないように、一人で問題を抱え込まず、自分の味方になってくれる人を見つけて一緒に対応してください。そして、虐待されている子どもがいる、児童相談所にも対応してもらえないというような問題があれば、日本全国どこからでもコラボに連絡してください。子どもたちの生活と生命が守れるよう、一緒に取り組んでいきましょう。


表紙
子どもを「育てる」
教師のチカラ

子どもを「育てる」教師のチカラNo.43(2020年秋号)

特集  「自学力」を育てる! With/Afterコロナの授業力

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