遊びから広がる!特別支援教室のボードゲーム【第8回】協力型ゲームでつなぐ子どもたちの心

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日本標準

特別支援教室では、子ども一人ひとりの特性に合わせた学びの工夫が大切です。

ボードゲームは、その遊びの楽しさを通じて多様な学びを自然に育むことができる教材ですが、教材の選定や言葉かけ、役割設定などの工夫が重要です。

この連載では、授業で活用するボードゲームの紹介だけでなく、教員の工夫や実践のポイント、記事を書きながら大切だと感じた「気づき」もあわせてお伝えしていきます。

1.空気を読むボードゲームって?

「今の、空気読んでほしかったな……」

「どうしてここで、そんなこと言っちゃうんだろう?」

学級経営の中で、先生方が一度は抱くもどかしさではないでしょうか。

「空気」という名の、見えないルール

私たちが日常的に使っている「空気を読む」という言葉。
それは、相手の表情、声のトーン、その場の状況、過去の経緯といった膨大な「非言語情報」を瞬時に処理し、最適解を導き出すという、極めて高度な情報処理能力を指します。
しかし、特性をもつ子どもたちにとって、この「行間を読み取る」作業は、霧の中で標識を探すような不安を伴うものです。
文字通りの言葉は受け取れても、その裏側にある「意図」まではなかなか届きません。

「もっと周りを見て」という抽象的な指導だけでは、彼らの困難さは解消されないのが現実です。
むしろ、言葉を真に受けて「キョロキョロと物理的に周囲を見回してしまう」など、意図とは異なる行動に繋がることも少なくありません。

今回紹介する『花火 / HANABI』が、なぜ「空気を読む」ゲームになるのでしょうか。
それは、ボードゲームが「限定されたルールの中で、他者の意図を推測せざるを得ない状況」を意図的に作り出してくれるからです。
現実の人間関係とは異なり、ゲームには明確なゴールとルールがあります。
注目すべきポイントが絞り込まれているため、子どもたちは「今、友達は何を考えているんだろう?」という他者視点の獲得に、無理なく意識を向けることができるのです。

このゲームの最大の特徴は、「自分の手札だけが見えず、他人の手札はすべて見える」という特異なルールにあります。
自分の手札を知るためには、仲間の助言を信じるしかありません。そして仲間は、限られた情報の中で「今、相手は何を知りたいはずか」を推測し、ヒントを出します。
まさに、「相手の立場に立つ」「意図を汲み取る」という、空気を読むプロセスのエッセンスが凝縮されているのです。
成功すれば「通じ合った!」という喜びを共有し、失敗しても「次はどう伝えようか」と前向きに振り返ることができます。

2.教材(ボードゲーム)の概要 ※実際の商品説明とは異なる場合があります。

基本情報

名称:花火 / HANABI【販売元 ホビージャパン】
人数:2~4人
時間:約30~40分
対象:高学年・中学生

©2023 Cocktail Games / Les XII Singes

ゲームの世界観

プレイヤーは、花火大会の準備中に火薬や導火線をうっかり混ぜてしまった花火師です。
花火大会はすでに始まっており、限られた時間の中で仲間と協力して大惨事を防がなければなりません。
色ごとの花火カードを1から5まで順番に並べ、美しい花火を完成させることが目標です。
花火師たちが力を合わせて花火大会を成功させようとする物語に自然と入り込むことができます。

協力して美しい花火を打ち上げるという分かりやすい目標があるため、「みんなで成功させたい」という気持ちが自然と湧き、温かい雰囲気の中で遊ぶことができるゲームです。
最終的に打ち上げられた数によってランクづけされるのも魅力です。
25点の満点は「伝説級の花火大会」となり、子どもたちはこれを目指したくなります。

ルール

1.自分の手札は見えません
カードの表面を自分ではなく相手に向けます。

2.選べる行動は1つ
「ヒントを出す」「カードを出す」「カードを捨てる」のいずれか。

3.協力して打ち上げる
色ごとに「1→2→3→4→5」の順に並べます。

4.ミスは3回まで
3回失敗するとゲーム終了。満点の25点は「伝説級の花火大会」と呼ばれます。

写真のように、カード置きを活用すると推理に集中できます。
また、情報を得られているカードと情報がないカードに分けやすいです。

3.学びの要素

日本ボードゲーム教育協会の研究(引用:https://sites.google.com/view/jbgea/report?authuser=0)を参考にしています。
このゲームから得られる学びの要素と育つ場面をまとめました。

他者意識:仲間がどの情報を必要としているかを考えてヒントを出す場面。
推理力:もらったヒントを手掛かりに、自分の手札を推測する場面。
情報処理:色・数字・既出カードの情報を整理する場面。
判断力:出す・捨てる・ヒントを出すの3つの中から最適な行動を選ぶ場面。
対話力:ヒントの意図を共有しながら協力する場面。
メタ認知力:自分が分かっていることと分かっていないことを整理する場面。
計画力:限られたヒントトークンを見ながら先の展開を考える場面。
レジリエンス:失敗しても感情を切り替え、次の一手を冷静に考える。

4.こんな子におすすめ&実践のポイント

言葉の「裏側」にある意図を汲み取ることが難しい子

このタイプの子どもは、言葉を文字通りに受け取る力は高い反面、その言葉が置かれた「文脈」から意図を推測することに困難さを抱えています。
例えば、授業中に先生が「今は何の時間かな?」と問いかけた際、単に「算数です」と事実を答えるだけで、その裏にある「お喋りをやめて準備をしなさい」という意図には気づけません。

『花火 / HANABI』において、友達からの「このカードは赤だよ」というヒントは、単なる色の情報ではありません。
それは「今すぐ出すべきカード」なのか、あるいは「今は捨ててはいけない大事な札」なのか、盤面の状況に合わせた解釈を必要とします。
このタイプの子には友達がどんなふうにヒントを言っているか、注目させるようにしています。
人間が発する言葉は、声のトーン、速さ、間、大きさ、強さ、タイミングなどさまざまな要素を含み発せられます。
「◯◯さんは、今大きな声で言っていたよね、どういうことだと思う?」と言葉掛けをします。
すると、「今の言葉は大事だから大きな声で言っていたのだと思う」と感じるようになってきます。
意図を読み解く経験を積むことで、言葉の裏側にある「メッセージ」を察する力が少しずつ育まれていきます。

自分と他者の「見えている世界」の違いに気づきにくい子 

「自分に見えている世界は、他者にも同じように見えているはずだ」という感覚が強い子どもにとって、他者視点に立つことは非常に高いハードルです。
友達が困っていても「なぜ困っているのか」が分からず、結果として自分勝手な行動に見えてしまうことがあります。

『花火 / HANABI』の「自分の手札だけが見えない」という特殊な構造は、この「視点の違い」を物理的・視覚的に突きつけます。
自分の手札を自分だけ見ることができないことで、他者の意見を聞くこと以外、知ることができません。
また、逆に他者が知らない情報を自分が持っている。
お互いに頼らないとゲームクリアに至らない特殊な環境なため、意図的に他者に注目がいきます。
これまで他者の意見を受け入れなかった子も自然と友達を頼ることになっていきます。


↑プレイヤーの視点

友達の言葉を聞き、信じ、成功した時は「言葉を聞いて信じてプレイするといいことがあったね」と価値づけることで、言葉を聞くことの良さを知ることにつながります。

全体の状況を見ず、目先の情報に飛びついてしまう子

衝動性が高く、パッと目に入った刺激にすぐに反応してしまう子どもは、全体の「流れ」や「場の雰囲気」を捉える前に体が動いてしまいがちです。
周囲が片付けを始めていても、自分の手元の工作に没頭し続け、結果として「空気が読めない」と評価されてしまうことがあります。

『花火 / HANABI』では、ヒントをもらった瞬間にカードを出したくなりますが、成功させるには一度手を止め、「今、場には何番まで出ているか」「他の仲間の手札はどうなっているか」という全体像を確認しなければなりません。
取り組み始めた時は、自分の出したいカードをすぐに出してしまい、友達から反感を買ってしまい、ゲームクリアに繋がらないことがあります。
でも、このような失敗は「ナイスミス」であり、この失敗を活かしていく必要があります。
すぐ出さず、「一回止まって周囲を見渡す」というプロセスできたときこそが、空気を読むための「アイドリング(準備時間)」となります。
ゲームという枠組みの中で「全体を見てから動く」という成功体験を繰り返すことで、日常生活でも一呼吸置いて周囲を観察する余裕が生まれます。
目先の刺激ではなく全体の文脈(空気)を見てから動くという自己調整の力を養います。

5.気づき

自ら動き出す力

『花火 / HANABI』は大人でも満点クリアが難しいからこそ、子どもたちにとって「伝説級の花火を打ち上げたい!」と願う挑戦的な探究的な活動へと進化します。
この「本気で成功させたい」という切実な動機が、子どもたちの意識を内側から変えていきます。

「またやりたい!」という熱量の中で、子どもたちは自然と空気を読むことの必要性に気づき始めます。
「友達があの言い方をしたのは、これを出してほしいからだ」「困っている子がいるから助けよう」と、自分本位な視点から脱却し、他者を深く意識し始めるのです。

1ゲーム40分という時間は、彼らにとって思考を深める貴重なプロセスです。
時間切れになっても「次こそは!」と作戦を練り、感情や行動を律しながら挑む姿は、まさに自己調整の現れです。
単なる遊びを超え、失敗を糧に他者と響き合う。
そんな主体的な学びが、伝説級の花火大会を目指す道のりの中で着実に育まれていきます。

「空気読んで!」に表れた子どもの成長

『花火 / HANABI』を続けていると、子どもたちのやり取りに大きな変化が見られることがありました。
ある時、これまで相手の気持ちや場の流れを読み取ることが苦手だった子が、「〇〇さん、空気読んで! 今このタイミングでこのヒントを出しているんだよ。どういうことか分かる?」と友達に強めな口調で声を掛けていました。
その言葉を聞いたとき、ゲームを通して相手に意図をもって伝えたい力が育っていることを実感しました。

この言葉は、単なる注意ではありません。
自分の中に「伝えたい意図」があり、相手にも「意図を読み取ってほしい」ということです。
意図をもって伝えるようになると、意図を伝えてくる意味が分かるようになります。
大人から「空気を読んで」と言われるよりも、子ども同士のやり取りの中で伝え合うことで、より実感を伴って身に付いていきます。

また、言われた子も次第に、相手に伝わるようタイミングを意識してヒントを出すようになりました。
時には答えに近い言い方になることもありますが、「相手に伝えたい」という気持ちの表れとして、まずはその姿を大切にしています。
『花火 / HANABI』は、協力して遊ぶ中で、相手の意図を考え、伝え方を工夫する力が自然と育つゲームです。

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