遊びから広がる!特別支援教室のボードゲーム【第11回】友達と共に目標を達成するための協力

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日本標準

特別支援教室では、子ども一人ひとりの特性に合わせた学びの工夫が大切です。

ボードゲームは、その遊びの楽しさを通じて多様な学びを自然に育むことができる教材ですが、教材の選定や言葉かけ、役割設定などの工夫が重要です。

この連載では、授業で活用するボードゲームの紹介だけでなく、教員の工夫や実践のポイント、記事を書きながら大切だと感じた「気づき」もあわせてお伝えしていきます。

この記事の内容
  1. 相手の状況を想像するボードゲーム
  2. 教材(ボードゲーム)の概要
  3. 学びの要素
  4. こんな子におすすめ&実践のポイント
  5. 気づき

1.相手の状況を想像するボードゲーム

今回紹介する「ザ・ゲーム」を題材にして、対話や協働をねらいとした授業を行ったことがあります。
その際、見学していた教員から「何度も何度も繰り返し、対話してトライしている」「さっきまでは窮地に追い込まれていた子が、今度は助ける側になってフォローしている」と、驚きとともに子どもたちの様子が語られました。

通常の授業でも同じような協力の場面は見られますが、それが授業時間内ずっと継続することは珍しいかもしれません。
ここには授業構成の違いだけでなく、ボードゲームならではの「ルールの秘密」が隠されていると感じています。

「ザ・ゲーム」には、持っているカードの具体的な数を言ってはいけないという制限が設けられています。
子どもたちはこの制限の中で試行錯誤しながら、なんとか数を言わずに自分の状況を伝えようと工夫します。
もしこのルールがなければすんなりクリアできてしまうことは、子どもたち自身も予測できます。
あえてこの制限ゲームともを設け不自由さを楽しむゲームと言えるでしょう。

子どもたちは「出さないで!」「そこなら出せるよ」といった曖昧な言葉から、他者の意図や状況を想像し、自分の行動を決定するという高度なプロセスを求められます。
直接的なスキル訓練ではなく、ゲームという探究的な学習活動のなかで、「どうすれば仲間に伝わるだろうか」を子どもたちが自ら考え、他者と関わる心地よさを自然に体験できるのが大きな魅力です。

2.教材(ボードゲーム)の概要 ※実際の商品説明とは異なる場合があります。

基本情報

名称:ザ・ゲーム【販売元 株式会社アークライト】
人数:1~5人
時間:約40分
対象:高学年・中学生

ゲームの世界観

プレイヤー同士で戦うのではなく、「プレイヤー全員」対「ゲーム」という構図で協力するカードゲームです。
数字を教え合うことができないもどかしさの中で、お互いの言葉のニュアンスを感じ取り、見事すべてのカードを出せたときの達成感と一体感は格別です。

ルール

①1〜99までの数字カードを使用します。

②場には「1から増やす列」が2つ、「100から減らす列」が2つ、計4つの列があります。

③自分の番が来たら、手札から最低2枚のカードをいずれかの列に出さなければいけません。

④「ちょうど10」戻る(または進む)カードであれば、数字の流れを逆行して出すことができ、場を回復させられます。

⑤誰もカードが出せなくなったらゲームオーバーです。山札も含め、全員の手札を出し切れば完全勝利です。

3.学びの要素

日本ボードゲーム教育協会の研究(引用:https://sites.google.com/view/jbgea/report?authuser=0)を参考にしています。
このゲームから得られる代表的な学びの要素と、それらが育つ場面をまとめました。

他社意識

「友達は今、どんなカードを持っていて困っているのだろう」と、相手の状況を想像する場面。

コミュニケーション力

数字を言わずに「ここは絶対に出さないで!」など、自分の意図を工夫して伝える場面。

セルフマネジメント

自分の想定通りにいかなくても、仲間のプレイを許容し、次の最善策を考える場面。

社会性

苦しい状況を連携して乗り越え、少人数グループ全体で達成感を共有する場面。

4.こんな子におすすめ&実践のポイント

自分だけでプレイしてしまう子

グループワークなどの学習場面で、周りの状況を確認せずに自分の作業だけをどんどん進めてしまったり、友達と相談せずに自分のやり方だけで完結させてしまったりする子がいます。
また、「自分はこうしたい」と一方的に思いを伝えてしまい、トラブルになることもあります。同じ空間にいても自分の世界だけで活動する状態になりやすく、周囲の子が置いてきぼりになってしまうようなケースです。

「ザ・ゲーム」は全員でクリアを目指す協力ゲームであるため、自分の手札だけを見て無言で進めることはできません。カードを出す前に「ここに出していい?」「あ、次は私が出したいから待って!」といった対話が必然的に生まれます。
「自分がここに出したら、次の人は困らないかな?」と他者の手札や状況を想像することが、ゲームを進める上で欠かせない鍵となるからです。
最初は自分のカードを出したい衝動があっても、共通の目標に向かって「待つ」「譲る」という経験を重ねるうちに、自分の行動が仲間の助けになるという「他者への貢献」の喜びに気づきます。
大人がルールとして協調性を押し付けるのではなく、ゲームの構造自体が、子どもたちを自然で心地よい協働的な活動へと導いてくれるのです。

失敗や負けに対する不安が強い子



授業で間違えることを極端に恐れて発言できなかったり、勝ち負けのある活動で負けそうになると「〇〇くんのせいだ!」と他責にしてしまったりする子がいます。
また、自分が失敗することへの不安が強く、挑戦すること自体を避けてしまうこともあります。

このゲームでは、苦しい手札の時こそ「ごめん、ここに一気に数が増えちゃうカードを出してもいいかな?」と友達と相談し合うことが基本となります。
たとえその一手で数の間隔が大きく開き、チームがピンチになったとしても、事前にみんなで話し合い、許可を得て出したカードであれば、それは「誰か一人の失敗」ではなく「チーム全員の判断」へと意味合いが変わります。
責任が個人からグループ全体へと分散されることで、「怒られるかも」「自分のせいで負けるかも」という過度な不安がふっと和らぎます。
さらに、「では、ここからどうやってリカバリーしようか?」とみんなで打開策を探究する前向きな空気が生まれるため、失敗を恐れずに他者と関わり、安心してゲームという挑戦に向き合うことができるようになります。

言葉の意図をとらえたり、伝えたりするのが苦手な子

日常会話の中で、言葉を文字通りに受け取ってしまい、相手の声のトーンや言葉の端々にある「本当の意図」を汲み取るのが苦手な子がいます。
例えば、友達が焦りながら「ちょっと待って」と言っているのに、その深刻さや会話の流れに気づけずに自分の作業を進めてトラブルになってしまうことがあります。
言葉の表面的な意味と、実際の会話の文脈やニュアンスとのズレが、コミュニケーションのつまずきに繋がりやすいタイプです。

数字を直接言えないこのゲームでは、「待って、そこは出さないで!」「ここは私に任せて」といった言葉のニュアンスや声のトーンから、相手の「緊急度」や「意図」を想像して意思疎通を図る場面が多々あります。
最初は相手の焦っているニュアンスに気づかずにカードを出してしまい、コミュニケーションの「ズレ」による失敗が起きることもあります。
しかし、全員でクリアしたいという共通の思いがあるため、「今の『待って』は絶対に出しちゃダメなやつだったね」「本当にピンチの時は『緊急事態!』って言おう」と、会話のズレをその都度グループ内で修正し合う対話が自然と生まれます。
1回のゲームの中でピンチとフォローの場面が幾度となく訪れるため、プレイを重ねるうちにグループ内で「共通の言葉」が生まれることもあります。
「どう言えばこの状況が伝わるか」「相手はどんな意図でその言葉を発したのか」という会話の文脈(行間を読む力)を、他者との関わりの中で体感的に掴み取っていくことができるのです。

5.気づき

「ちょうどいいレベル」が、心に余裕と対話を生む 

「ザ・ゲーム」の本来の目的は、全員で協力してゲームクリアを目指すことにあります。
しかし、私が特別支援教室の授業でこの教材を取り扱う最大のねらいは、「対話を通して協働するプロセスを味わうこと」です。

そのため、授業では子どもたちの実態に合わせてルールを変更することがあります。
例えば、「手番では最低2枚のカードを出さなければならない」という基本ルールは、子どもたちにとってクリアのハードルを大きく上げてしまいます。
そこで私は「1枚か2枚出す」というルールに変更しています。
難易度を彼らに「ちょうどいいレベル」に調整することで、子どもたちは自分の手札を処理するだけで精一杯にならず、心に余裕が生まれます。
その結果、自然と「ここ、出していい?」といった対話や協働が繰り返され、本来のねらいである豊かな関わり合いを通してゲームクリアを目指すことができるのです。

「次もやりたい!」を引き出す、適切な場の設定ときっかけづくり 

「ザ・ゲーム」や以前紹介した「花火/HANABI」は、一度プレイしただけでは大人でもクリアできないことが多い、難易度の高いゲームです。
しかし、自分たちでクリアという目標に向けて動き出した子どもたちからは、自然と「悔しい!次もやりたい!」という言葉が出てきます。
この言葉を聞けた瞬間、私はいつも心の中で「よしっ」とガッツポーズをしてしまいます。
子どもたちが自ら動き出す「きっかけ」を手渡せたことに、教員として大きな喜びを感じるからです。
そして、試行錯誤の末に2回目の挑戦でクリアできた時の、子どもたちの一体感は格別です。
また、少し時間をおいて再度このゲームを行う際は、変更していたルールを元に戻し、本来のルールで提案するようにしています。
すると、子どもたちはまた新たな壁にぶつかり、さらなる試行錯誤を始めます。
それはまるで、RPGでクリア後に「裏ボス」を倒しに行くような、ワクワクする感覚に近いかもしれません。

このように大人が適切な場の設定を行っていくことで、子どもたちはいつの間にか、遊びの枠を超えてゲームのクリアに向けた「探究」を深めていくのです。

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