遊びから広がる!特別支援教室のボードゲーム【第12回】記憶の仕方は、ひとつじゃない

特別支援教室では、子ども一人ひとりの特性に合わせた学びの工夫が大切です。
ボードゲームは、その遊びの楽しさを通じて多様な学びを自然に育むことができる教材ですが、教材の選定や言葉かけ、役割設定などの工夫が重要です。
この連載では、授業で活用するボードゲームの紹介だけでなく、教員の工夫や実践のポイント、記事を書きながら大切だと感じた「気づき」もあわせてお伝えしていきます。
- 他者との違いを知るボードゲーム
- 教材(ボードゲーム)の概要
- 学びの要素
- こんな子におすすめ&実践のポイント
- 気づき
1.他者との違いを知るボードゲーム
「他に何があったっけ……、分からない。」
今回紹介する『注文の多すぎるゲーム バーガー』をプレイしていると、こうつぶやいてしまいます。
読み上げられた注文をその場では覚えたつもりでも、いざ自分の手札を確認する頃には、記憶があやふやになっていることがよくあるのです。
これは、決して特別なことではありません。
耳から入ってきた情報を一時的に頭の中に留め、必要なときに正しく取り出す力(聴覚的なワーキングメモリ)には、実は個人差が大きいのです。
私自身、人の話を聞いて理解するまでに時間がかかるタイプです。
会議で口頭だけの説明を受けると、内容を掴みきれないまま次の話題に移ってしまうことがよくあります。
だからこそ、このゲームで「覚えられなくて悔しい」と感じている子どもたちの気持ちが、他人事とは思えません。
『注文の多すぎるゲーム バーガー』の面白いところは、「全部覚えられなくても大丈夫」という前提でゲームがデザインされている点です。
一人で完璧に覚える必要はなく、みんなで少しずつ覚えた記憶を持ち寄れば、注文はさばけていきます。
「覚えられない」ことが失敗ではなく、遊びの一部として自然に受け止められる。
この安心感こそが、記憶に不安のある子どもたちにとって、大きな魅力になっています。
2.教材(ボードゲーム)の概要 ※実際の商品説明とは異なる場合があります。
基本情報
名称:注文の多すぎるゲーム バーガー【販売元 小学館グッドゲームズ/開発 オインクゲームズ】
人数:2~6人
時間:約20分
対象:低学年~高学年・中学生
ゲームの世界観
プレイヤー全員がハンバーガーショップの店員となり、次々と読み上げられる大量の注文を協力して覚え、さばいていくゲームです。
「ハンバーガー」「チーズバーガー」「ポテトМサイズ」など、似たような名前の注文がいくつも登場するため、覚えたつもりでも記憶がこんがらがってしまいます。
読み上げ係が注文カードを一気に読み上げる緊張感と、覚えた記憶を頼りに宣言していくドキドキ感が、このゲームの大きな魅力です。
少しずつ注文数が増えていくことによって、記憶の限界に達するときこそ、協力プレイが際立ちます。
ルール
①読み上げ係が「レベル×人数」枚の注文カードを引き、全員に聞こえるように読み上げます。
読み上げ係を含む全員で、その内容をできるだけ覚えます。
②読み上げ終わったカードはシャッフルして裏向きのまま全員に配ります。
自分の手札は自分だけが確認できます。
③手番のプレイヤーは、他の人が持っていそうな注文を1つ宣言します。
宣言された注文を持っている人がいれば、そのカードを表向きに出します。
誰も持っていなければ「失敗」となり、そのプレイヤーは以後手番を持てなくなります。
④クリアに必要な人数分の手札がなくなればレベルクリア。
全員の店員チップが裏返ってしまうとゲーム終了です。
⑤1回だけ使える「スペシャルカード」で、他の人の持つ注文の最初や最後の文字だけをヒントとしてもらうこともできます。

3.学びの要素
日本ボードゲーム教育協会の研究(引用:https://sites.google.com/view/jbgea/report?authuser=0)を参考にしています。
このゲームから得られる代表的な学びの要素と、それらが育つ場面をまとめました。
短期記憶
耳で聞いた情報を一時的に頭の中に留めておく力です。
読み上げられた注文を、自分の手番が来るまで覚えておこうとする場面で身に付きます。
情報の取り出し
覚えている記憶を必要なタイミングで正確に思い出し、目の前の事実(自分の手札)と照らし合わせる力です。
「これは自分のメニューカードかもしれない」と、記憶を手がかりに宣言する場面で育まれます。
メタ認知力
自分がどのように覚えると覚えやすいかを振り返り、自分に合った方法を見つけていく力です。
ジャンル分けしたり、物語として想像したりと、様々な覚え方を試しながら、自分や友達の記憶の仕方の違いに気づいていく場面で育ちます。
レジリエンス
うまくいかないときも、気持ちを立て直し、仲間と支え合いながら前に進む力です。
誰かが注文を思い出せなくても、「大丈夫、次はいけるよ」と声をかけ合いながら次に進む場面で育っていきます。
4.こんな子におすすめ&実践のポイント
覚えやすい方法が分かっていない子

記憶の方法は「聞いて覚える」だけでなく「見て覚える」など様々ですが、子どもたちは自分に合った覚え方が分からず戸惑いがちです。
そのため、最初はあえてコツを教えず、各自がどう覚えようとしているかを観察することから始めます。
レベルが上がり難しくなってきたら、段階的に工夫を仕組んでいきます。
例えば、教員に続いて「ハンバーガー」と復唱させて耳と声で補強したり、カードをジャンル(バーガー、ドリンク等)ごとに並べて視覚化したりします。
すると子どもたちは、数や位置、頭文字で覚えるなど、自分なりのアプローチを試し始めます。
私は注文から「何人家族かな?」「たくさん食べる人がいるなぁ」と背景のストーリーを頭の中で映像化して記憶するタイプです。
教員がこうした自分のやり方を一つの選択肢として見せることで、子どもたちは「覚え方はひとつじゃない」と実感し、自分に合った方法を主体的に探すきっかけを得ることができます。
覚えることが苦手な子

覚えることへの拒否反応が強い場合は、教員と子どもの2人で取り組むことをおすすめします。
このゲームはレベル1でも、6人いれば6つのメニューを覚えなくてはなりません。
2人で取り組めば、レベル1は2つで済みます。
一つずつクリアして着実にレベルアップしていくことは、自信につながります。
教員とのペア活動で覚えるコツを身につけると、グループで取り組んだときにコツを教える側に回ることができます。
友達にゲームのコツを教え、チームでクリアすることで、その子の有用感は高まっていきます。
私はこのような子には、教員が担当している読み上げ役を任せ、みんなを引っ張っていく存在にするようにしています。
失敗を許せない子

「失敗」が許せず、「自分のせいだ」と落ち込んでしまったり、他者を責めてしまったりする子がいます。
休み時間の遊びの中でも、トラブルになってしまう原因のひとつかもしれません。
このゲームは協力ゲームであるため、失敗を誰か一人の責任にする必要はありません。
「みんなで覚えているんだから、私が助ける」「ぼくに任せて」といった協力的な言葉かけが自然と出てきます。
失敗を許せない子がそうした言葉をかけられたときには、大いに褒め、みんなで取り組んでいることを意識させることが大切です。バーガー屋さんになるという世界観が、子どもたちを自然と協力体制に導いてくれます。
5.気づき
なぜ「書きながら気づく」タイプなのか
このように子どもたちの記憶の仕方が様々であるように、大人である私自身も、理解の仕方に大きな偏りがあります。
第1回でお話しした『書きながら気づくタイプ』という点について、ここで理由をお伝えします。
実は、私は言語処理が得意ではありません。
難しい言葉がすっと頭に入りにくく、聞き取る力も弱いため、耳からの情報を理解するまでに時間がかかります。
会議や研修で話に追いつけないことも多く、常に言葉を調べながら聞くか、「聴くこと」だけに集中するような工夫が必要でした。
今回紹介した『注文の多すぎるゲーム バーガー』で子どもたちが感じていた「覚えられなさ」は、まさに私が日常的に抱いている感覚そのものです。
そんな私が「あ、分かった」と理解を深められるのは、体験したことを文章として整理し直す瞬間でした。
パソコンで文字やスライドに書き出していく作業を経て、初めて内容が自分の中に落ちていきます。
教員生活の中で、ようやくその特性に気づきました。
耳からの情報を自分の手で書き出し、目で見て確認するというプロセスを通して、私はようやく「理解」にたどり着けるのです。
今回の連載は、これまで学んできたことや感じてきたことを、より深く噛みしめる機会になっています。
聞いてすぐに理解できる人がいる一方で、私のように一度言葉にして整理し直さないと追いつかない人もいる。
「書きながら気づく」のは、書くという行為自体が、私にとっての理解のプロセスそのものだからです。
自己開示することで、新しい気づきが生まれる理由
この連載では、これまでも自身の得意・苦手を自己開示しながら執筆してきました。
なぜ自己開示することが新しい気づきを生むのか、その理由も見えてきました。
自分の苦手さを言語化する作業は、体験を記事にまとめ直す構造と全く同じです。
頭の中にあるぼんやりとした「なんとなく苦手」を文章に落とし込もうとすると、「なぜ苦手なのか」「どんな場面で困るのか」「どう工夫してきたのか」を自分自身に問い直さざるを得なくなります。
この問い直しの過程こそが、自分を深く知る気づきの瞬間なのです。
自分と他者では、理解の仕方そのものが違う。
そう実感したからこそ、子どもたちに対しても一律のやり方を求めるのではなく、多様な学び方があるという前提で接したいと感じています。
「聞いて覚える」のが得意な子、「書いて整理する」ことで理解できる子、そして「物語として映像化して」覚える子。
『注文の多すぎるゲーム バーガー』で見られた記憶の仕方の違いは、そのまま学び方の違いでもあります。
こうして自己開示しながら記事を書く作業は、子どもたちの多様な学び方を捉え直すための、私自身の「学びの場」になっているのかもしれません。
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