ウィーン・飛ぶ教室///第19回:ヨーロッパ式休暇の過ごし方

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休暇ってどう過ごす?

オーストリアでは、労働者には5週間の有給休暇が認められています。土日を含まず、分割して取ることが一般的です。例えば、夏に海で3週間、冬にスキーで1週間、あとの1週間バラバラに取る、といった具合で、有給消化率は100%です。勤務年数が長いと6週間の有給休暇を認められている人もいます。

こちらに来て、冬休みにスキーに行きたいと思って、スキーリゾートのホテルプランを調べて驚いたことがあります。それは、予約が1週間単位のところがとても多いということです。そういったホテルでは、1泊2日などの予約がそもそもできないのです。

例えば、週末を利用して、2泊3日で、オーストリアの隣国ハンガリーの首都ブダペストに行くと言うと、「そんなにちょっとで何も見れなくない?」とよく言われます。

でも、私の言い分はこうです。いくら海水浴やスキーが好きだからって、1週間も行ったら飽きてしまうし、疲れてしまう。それに費用だってばかにならないでしょう?

どうしても、1週間以上の休暇の取り方がイメージできません。そこで、こちらにいる人々に根掘り葉掘り聞いてみることにしました。

まずは、旅行好きのドイツ人カップルです。仕事はすでに引退しています。2022年2月に3週間、ポルトガルのマデイラ諸島に滞在していました。

 

伊藤「3週間も何するの? 友達と一緒じゃ気を遣うし、疲れない? 第一、費用だってばかにならないんじゃない?」

友人「自転車乗ったり、散歩したり、ちょっと遠出で山登りしたりするけど。もちろん、行きたくなければ行かなくていいし。友達といつも一緒ってわけじゃない。友達と一軒貸しの家を借りてるから、費用だってそんなに高くないよ。レストランでいつも食事するわけじゃないし、ほとんど自炊してるしね。」

 

次に、オーストリア人カップルです。夫はすでに仕事を引退していますが、妻はまだフルタイムで働いています。同じく2月に3週間、コスタリカに滞在しました。

 

伊藤「3週間もコスタリカで何するの? すごい荷物になりそうだし、疲れない?」

「逆に、長い距離を移動するんだったら、その分、長く滞在しないと疲れるし、もったいないだろう?」

「最初の2週間はコスタリカの大自然を満喫するツアーに参加したの。最後の1週間は、ホテルでのーんびり、何にもしなかった。荷物は確かに多いかも…。」

伊藤「あのさ、下世話なこと聞くけど、例えば、下着とかいったい何枚持って行ったの?」

「2週間分、14枚持って行ったよ!(笑)現地で1回だけ洗濯したかな。最後の1週間は、ずーっとプールにいたから、水着だけで、着替えなんかいらなかったし!(笑)」

 

そう言って笑う彼女にも、心配事があります。老人ホームに入っている母親のことです。コスタリカに行く前には母親に会いに行き、彼女の旅行中には、彼女の2人の姉妹が母親を訪ねていくよう調整しました。もちろん、逆の場合もあります。そうして休暇を取り、リフレッシュをはかるのです。彼女は、またそのあとで2度、1週間ずつ、1人で山歩きのための休暇を取りました。

ここに紹介した知人たちには子どもがなく、夫婦2人の時間をとても楽しんでいます。比較的裕福な人々の事例といってもいいかもしれません。

 

高齢者の休暇

高齢者つながりで、少し脱線するのですが、私たちがバード・イシュル(Bad Ischl)という、皇帝フランツ・ヨーゼフが愛した温泉に行った時のことです。こちらの温泉の過ごし方は、水着を着て、せいぜい36度程度かそれ以下のぬるいお湯に出たり入ったりをくり返すという感じです。泳いだりもできる大きなプールが室内外にいくつもあり、大人も子どもも楽しめるようになっています。

プールサイドに、複数の手押し車や杖が置かれているのが目に入りました。それは、このプールに来ている高齢者のものでした。プールから上がると、例えば、別のプールまで自分の手押し車や杖を使いながら移動します。

ジャグジーに入っていたときのことです。私はそこに入る階段のすぐ近くでボーっとしていました。すると、入ってきたおばあさんが私に言うのです。「ちょっと詰めてもらえませんか? ジャグジーの勢いが強くて、空いているところまで行けないから。」

そのおばあさんは、脚力が弱いのでしょう。あとで手押し車を使っていたのを見ました。手押し車を押しながら、温泉に来て、休暇を楽しんでいる高齢者たちにとても感心しました。

私なら「プールサイドは滑りやすいよ。手押し車を押してまで行って、けがをしたらどうするの?」と足の弱った親に言ってしまうところだと思ったからです。

もちろん、このおばあさんは、医師からもこの温泉施設での湯治を許可されていたのでしょうし、家族の賛成もあったのでしょう。しかし、いくつになっても休暇を楽しむこと、それを楽しみに生きることを私自身のこととして再考する必要があると思いました。

 

私が20歳のころからお世話になっているオーストリア人がザルツブルクにいます。ペッピは83歳。妻のカートルは残念ながら7年前に亡くなりました。彼らは私のオーストリアの両親のような存在です。

ペッピは技術者としてザルツブルク近郊の庭園に勤めていました。自分の家も時間をかけて自分で建て、修繕もすべて自分でやってきました。私が知る限り、退職後に行ったスペインとトルコが彼らの最も遠い旅行先だったと思います。

ペッピにこれまでの休暇について尋ねてみました。子煩悩だった彼は、子どもたちが小さなころにキャンピングカーを買って、イタリアの海岸沿いのキャンプ場で休暇を過ごすのが定番だったといいます。それだとあまりお金もかからなかったというのです。

子どもたちが大きくなって一度キャンピングカーは手放しました。その後、孫を休暇に連れていくためにまた買いなおしました。そのキャンピングカーで、夏休みには小さい孫たちを連れて2週間イタリアの海岸でキャンプをするのが、秋には、ハンガリー出身の義母と妻を連れてハンガリーに1週間行くのが定番でした。

このキャンピングカーは、今は娘家族が休暇に使用しています。彼も一緒には行きますが、今ではホテルに滞在するのが快適になったと話してくれました。

妻が亡くなってからは、かねてより好きだった自転車を趣味にしています。息子たちとともに、ザルツブルクからウィーンまで、あるいはウィーンからブダペストまで電動自転車で数日間かけて行くことを楽しみにしています。

ベッピ

ペッピ。ペッピとはもう30年近い付き合いになります。

 

  

子どもの休暇

では、子どもは夏休みなどの長期休暇をどうやって過ごすのでしょうか? 保護者が2週間の休暇を取って一緒に出かけたとしても、夏休みはたっぷり2か月間あります。そのため、保護者が同伴しない、子どもたちだけの宿泊付きキャンプがたくさんあります。

キャンプといっても、テントに泊まるわけではなく、3食おやつ付きで大きな宿泊施設に泊まって、さまざまなアクティビティ―をして過ごすというわけです。こうしたサマーキャンプは、昔からあったそうです。

そういえば、エーリッヒ・ケストナーの『二人のロッテ』(岩波少年少女文庫)も、こうしたサマーキャンプで、生き別れになっていた双子が出会うという話でした。

調べてみると、こうしたキャンプもほとんどが1週間単位で提供されています。対象年齢もバラバラですが、4歳から15歳くらいまでが一般的です。キャンプの使用言語を英語に限定したものも人気のようです。

日本でも夏休みの合宿はたくさん提供されていますが、1週間以上のものはなかなかないのではないでしょうか?

親がいまいちヨーロッパ風の休暇の過ごし方に慣れないために、このキャンプを上の子どもに体験させてみることにしました。期間は2週間。キャンプは、ザルツブルクの南東にある、ザルツカンマーグートという山と湖のとても美しい場所にあります。

キャンプではさまざまなアクティビティが展開されています。これらは、基本の宿泊料金にプラスされる形で、後払いになります。親がテニスをさせようと申し込んでも、子どもが実際にやってみてつまらなければ、やらなくてよいのです(料金も請求されません)。

テニスやサッカー、水泳、英語、外国人のためのドイツ語補習、アーチェリー、乗馬、演劇、ダンスなどのアクティビティが用意されています。うちの子は特に乗馬と演劇がとても気に入ったようです。

子どもには毎日電話をしました。最初は少しホームシックになって、持って行ったぬいぐるみを抱きしめて泣いていたそうです。指をけがして病院へ行くアクシデントもありました。でも、2週目になると電話の時間も短くなって、とても楽しんでいるようでした。

このキャンプでは、ドイツ、オーストリア、イタリア、ウクライナ、ロシアなどの子どもたちがおよそ50人、下は4歳から上は15歳まで、平均2週間を過ごしていたのでした。

 

休暇の過ごし方ガイドライン

イタリアとオーストリアの国境近くの街に生まれて、現在、ウィーンに暮らすイタリア人のマルチェロは、休暇は3週間がベストだとして、次のように過ごし方の指針を教えてくれました。

 

マルチェロ「1週目は、仕事から休暇へ気持ちを切り替えるだろ? それで2週目は何もかも忘れて、思いっきり楽しんで、リラックスして、3週目にはそろそろ仕事のことを思い出すようにして過ごすんだよ。」

伊藤「そういう考え方はわかったよ。けど、その間、具体的に何するの?」

マルチェロ「本を読むんだよ! 仕事してると、本読む時間とかないだろ? でも、とにかく何もしないんだよ!」

 

本格的な夏休暇が始まる前には、新聞で、休暇中におすすめの本が特集されます。日本では、子どもの夏休みの読書感想文の本ですが、こちらでは成人向けのさまざまなジャンルの本が紹介されるのです。そういえば、ザルツブルク近郊のホテルに宿泊した際、プールサイドで本や雑誌を読んでいる人がたくさんいました。

ようやくヨーロッパの人々の休暇の過ごし方がなんとなくわかってきました。しかし、言うは易く行うは難し。正しい休暇の実践はもう少し先に取っておくことになりそうです。

伊藤実歩子(立教大学文学部教授)

 

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